はじめに
社会的格差とは、社会の中で経済的・社会的な不平等が存在する現象を指します。この格差は、所得、資産、教育、情報など、様々な要素から生まれます。そして、これらの格差は国内だけでなく、世界全体や国と国との間でも生じています。
現代の社会的格差の概要と問題意識
格差社会という言葉は、バブル崩壊後の不況下においてしばしば聞かれるようになりました。格差社会の定義は「成員が、特定の基準から見て隔絶された階層に分断された社会であり、特に所得・資産面での富裕層と貧困層の両極化と、世代を超えた階層の固定化が進んだ社会」とされています。格差社会において最も問題になりやすいのが、経済格差や所得格差です。資本主義を謳う以上、競争原理が働き、その経済や所得に差が生まれるのは必然ではありますが、その差は格差と呼べるほど大きなものとなっています。
また、格差社会は、経済格差や所得格差について言及されることが多いです。それはあらゆる格差が生まれる原因に、経済格差や所得格差が大きく関わっているためであり、これらが起因となって連鎖的に資産や教育、情報などが固定化され移動が難しい社会ができあがっています。
最新の社会的格差のデータとその解釈
日本の経済格差について、全体として「深刻だ」と答えた人は、「ある程度」を含めて88%に上ったという調査結果があります。具体的な格差7項目について、それぞれ今の日本で深刻だと思うかを聞くと、「深刻だ」との割合が最も多かったのは「職業や職種による格差」と「正規雇用と非正規雇用の格差」の各84%でした。
また、厚生労働省の国民生活基礎調査によると、貧困線は直近の2021年に127万円だった。相対的貧困率は15.4%で、30年前より1.9ポイント高い。経済協力開発機構(OECD)によると、米国は21年に15.1%、英国は20年に11.2%でした。日本は米英と比べると国内の経済格差がやや大きい状況といえます。
これらのデータから、現代の社会的格差の問題が深刻であることが明らかになります。そして、これらの問題を解決するためには、社会全体での理解と対策が必要となります。
チェンジメーカーとは
チェンジメーカーとは、社会や組織、コミュニティなどで変革を起こす人々のことを指します。彼らは新しいアイデアや視点を持ち、既存の枠組みを超えて問題解決を試みます。社会的格差の問題も、チェンジメーカーたちが積極的に取り組むことで、より良い社会を創り出す可能性があります。
最新の取り組み
政府の政策とプログラム:ベーシックインカムの導入や労働市場の改革
日本維新の会は、税制改革、社会保障改革、成長戦略の3本柱で構成された政策を提案しています。その中で、最も注目されているのがベーシックインカムの導入です。この政策では、1人あたり月6万~10万円を給付することで、経済成長と格差是正の両立を目指しています。ベーシックインカムは、貧困や不安定な雇用に苦しむ人々に安心感を与え、消費や投資を促進するとともに、自己実現や社会貢献に向けた活動を支援すると期待されています。
しかし、一方で、ベーシックインカムの導入には予算の制約という現実があります。ベーシックインカムの財源としては、所得税や消費税の増税、法人税の見直し、社会保険料の削減などが検討されていますが、それでも十分ではないとの指摘もあります。また、低い水準のベーシックインカムは、社会権の強化を実質的にもたらすことはできないとの見解もあります。ベーシックインカムの導入には、社会的な合意形成や制度設計の慎重さが求められます。
企業のCSR活動:ダイバーシティ&インクルージョンの促進や教育機会の提供
キヤノンは、さまざまな個性や価値観をもつ人材を受け入れ、互いに高め合いながら成長する企業を目指しています。そのために、文化・習慣・言語・民族などの多様性を尊重し、性別や年齢、障がいの有無などにかかわらず、人材の公平な登用や活用を積極的に推進しています。キヤノンは、ダイバーシティ&インクルージョンの促進を、企業の社会的責任ととらえています。多様な人材が活躍できる環境を整えることで、企業の競争力やイノベーション力を高めるとともに、社会の課題解決に貢献すると考えています。
具体的には、女性管理職の人数は2011年の58人から2022年には147人に増えています。これは、女性のキャリア形成を支援するプログラムやメンタリング制度の導入、女性の登用に積極的な部署の表彰などの取り組みの成果です。また、男性の育児休業取得率は、2011年の1.9%から2022年には47.7%まで増えています。これは、育児休業の取得を奨励する啓発活動や制度の改善、育児休業後の復職支援などの取り組みの成果です。
NGOと市民団体の活動:教育支援、住宅支援、雇用創出など
一般市民の立場で活動するNGOは、現場からのデータを分析した情報と専門知識を提供するとともに、市民の関心事を政府に提示し、政策や国際的合意の監視や実現を行います。NGOは、社会の変革を目指す市民の声を代表する存在として、政府や企業に対してチェック機能を果たします。また、NGOは、開発途上国や被災地などで、教育支援、住宅支援、雇用創出などの活動を行い、現地の人々の自立を支援します。
JICAでは、NGOとの定期会合や草の根技術協力事業、NGO等活動支援事業、開発教育支援事業などを通じて、NGOと市民団体の活動を支援しています。JICAは、NGOとの協力を通じて、開発途上国の貧困削減や持続可能な開発の実現に貢献しています。JICAは、NGOとのパートナーシップを重視し、相互の信頼と尊重のもとで、対話や情報交換を行っています。
技術の進化と社会的格差
技術の進化は、社会全体に大きな影響を与えています。特に、AIや自動化の進展は、労働市場や経済に大きな変化をもたらしています。しかし、これらの技術の進展は、社会的格差の拡大にもつながっているという意見もあります。
AIや自動化の進展が社会的格差に与える影響
AIや自動化の進展は、多くの産業で労働力を置き換える可能性があります。これにより、一部の高度なスキルを持つ労働者には新たな機会が生まれますが、一方で低スキルの労働者は仕事を失う可能性があります。これは、所得格差の拡大につながる可能性があります。例えば、製造業では、ロボットやAIによる自動化が進み、一部の作業が人間から機械に置き換わっています。これにより、製造業に従事する低スキルの労働者の雇用が減少し、所得格差が拡大する可能性があります。
また、AIや自動化の進展は、大企業と小規模企業の間で新技術の導入状況が大きく異なることを示しています。大企業は新技術の導入により生産性を向上させることができますが、小規模企業は資源が限られているため新技術の導入を先延ばしにしがちです。これにより、企業間の格差が拡大する可能性があります。例えば、大企業はAIやビッグデータを活用して、マーケティングや商品開発を効率化し、競争力を強化しています。一方、小規模企業は、新技術の導入に必要なコストやスキルの不足から、新技術の導入をためらっています。
新技術を活用した格差縮小の可能性と課題
一方で、新技術を活用することで社会的格差を縮小する可能性もあります。例えば、教育や医療などの分野でAIを活用することで、質の高いサービスをより多くの人々に提供することが可能になります。これにより、教育や医療の格差を縮小することができるかもしれません。例えば、オンライン教育の普及により、地域や経済状況に関係なく、質の高い教育を受ける機会が増えています。また、AIを活用した診断支援システムにより、医療の質を向上させ、医療サービスの提供を効率化することが可能になっています。
しかし、新技術を活用した格差縮小には課題もあります。新技術の導入にはコストがかかりますし、新技術を活用するためのスキルや知識が必要です。これらの要素が格差の原因となる可能性があります。例えば、新技術を活用するためには、それを操作するためのデジタルスキルが必要です。しかし、全ての人がこれらのスキルを持っているわけではなく、スキルの有無による格差が生じる可能性があります。
以上のように、技術の進化は社会的格差に影響を与えます。その影響はポジティブなものもあればネガティブなものもあります。私たちは、これらの影響を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
新たな雇用モデルと教育のアクセス
新たな雇用モデルと教育のアクセスについて考えるとき、デジタル化が大きな役割を果たしています。教育のデジタル化は、教育現場におけるICT(情報通信技術)環境を整えることを目的とした政府方針で、教育現場でのICTにはパソコンや電子黒板、無線LAN、デジタル教科書などがあります。
具体的には、デジタル教科書は、紙の教科書からパソコンやタブレットなどの電子機器で読めるようにした教科書です。紙の教科書は読むことしかできませんでしたが、デジタル教科書は一部分を拡大したり動画を見られたりします。他にも音声再生や図を動かす、保存機能など、機能が充実しています。またデジタル教科書は、問題の答えを直接書き込み送信することも可能です。
デジタル教育やオンライン学習の可能性
デジタル教育やオンライン学習の可能性については、教育現場の創意工夫が十分に発揮されるよう、学校現場を後押しすることが重要です。また、教育のデジタル化には、教師の業務負担を軽減する効果も期待されています。
例えば、紙で行っていた業務はタブレット端末で行えるので、準備する手間を省けます。また授業中は、板書する機会が減らせますし、教師間での資料の共有も容易となるでしょう。
リモートワークやフリーランス労働の影響
リモートワークやフリーランス労働の影響については、生産性や意識の変化が見られます。例えば、販売・サービス職、専門・技術職の約5割が「生産性が下がった」と回答しているものの、驚くべきことに企画・事務職の5割以上が生産性は「変わらない」、もしくは「上がった」と回答し、さらに通勤時間減少によるストレス低下(回答者の7割)や余暇時間の拡充(回答者の3.5割)など、在宅勤務に関してポジティブな意見が多く見られました。
以上のことから、新たな雇用モデルと教育のアクセス、デジタル教育やオンライン学習の可能性、リモートワークやフリーランス労働の影響について考えるとき、デジタル化が大きな役割を果たしていることがわかります。これらの要素が相互に関連し、全体として一貫したストーリーを作り出すことが重要です。
終わりに
持続可能な開発目標(SDGs)との関連
持続可能な開発目標(SDGs)は、すべての人々にとってよりよい、より持続可能な未来を築くための青写真です。貧困や不平等、気候変動、環境劣化、繁栄、平和と公正など、私たちが直面するグローバルな諸課題の解決を目指します。SDGsの目標は相互に関連しています。誰一人置き去りにしないために、2030年までに各目標・ターゲットを達成することが重要です。
SDGsの17の目標
SDGsは、17の目標と169の具体的なターゲットを掲げています。これらの目標は、社会的な課題(貧困、飢餓、平和、ジェンダー平等、教育など)、経済的な課題(エネルギーの有効活用、働き方改革、不平等の解消など)、環境的な課題(気候変動、環境保護など)について幅広くカバーしています。
各国の取り組みと未来への展望
各国政府はCOVID-19危機に対応するにあたり、グローバル グリーン ディールに向けて協力し、再生可能エネルギーと効率の利点を認識し、すべての人に公正な移行を保証し、クリーンで低炭素の世界経済への道を開く必要があります。
世界経済の見通し
世界経済成長率のベースライン予測は、2022年の3.5%から2023年は3.0%、2024年は2.9%へ鈍化する見込みで、歴史的(2000~19年)平均である3.8%を大きく下回ります。先進国の成長率は、政策の引き締めの影響が出始める中、2022年の2.6%から、2023年は1.5%、2024年は1.4%へ鈍化する見込みです。新興市場国と発展途上国の成長率はやや鈍化し、2022年の4.1%から、2023年と2024年はともに4.0%となる見込みです。
再生可能エネルギーの展望
再生可能エネルギーは、持続可能な開発のための重要な要素です。各国は、再生可能エネルギーの導入と普及を進めることで、エネルギー供給の安定化と環境負荷の軽減を図っています。また、再生可能エネルギーの普及は、新たな産業の創出や雇用の創出にもつながります。
持続可能な開発目標(SDGs)は、私たちが直面する多くの課題を解決するための重要な道しるべです。各国は、これらの目標を達成するために様々な取り組みを進めています。しかし、その達成にはまだ多くの課題が残っています。私たち一人ひとりがSDGsの目標を理解し、日々の生活の中で具体的な行動を起こすことが求められています。
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