はじめに
関西電力が火力発電所の建設計画を中止したことを受けて、日本と世界のエネルギー事情を比較してみたいと思います。
火力発電とは、石炭や天然ガスなどの化石燃料を燃やして発電する方法です。火力発電は、安定的に大量の電力を供給できる利点がありますが、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出する欠点もあります。温室効果ガスは、地球温暖化の原因となり、気候変動や自然災害などの深刻な問題を引き起こしています。
日本は、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の影響で、原子力発電の稼働率が低下し、火力発電に依存する割合が高まりました。しかし、2020年には、日本政府が2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという「カーボンニュートラル」の目標を掲げました。この目標を達成するためには、火力発電の削減や再生可能エネルギーの拡大など、エネルギーの転換が必要です。
そんな中、関西電力は、兵庫県の新港火力発電所と和歌山県の和歌山火力発電所の建設計画を中止すると発表しました。これらの火力発電所は、天然ガスを燃料とする最新型の高効率発電所で、環境負荷の低減や電力需給の安定化に寄与するとされていました。しかし、関西電力は、カーボンニュートラルの目標や電力市場の変化などを考慮して、建設計画を見直す必要があると判断したのです。
この建設中止は、日本の脱炭素化に向けた一歩となるのでしょうか。日本と世界のエネルギー事情を比較してみましょう。元記事はこちらです。
日本のエネルギー事情と課題
日本は、エネルギー資源が乏しく、化石燃料に大きく依存している国です。このことは、エネルギーの安定供給や温室効果ガスの削減という課題を生み出しています。日本は、エネルギー基本計画に基づいて、多様なエネルギー源の最適な組み合わせを目指しています。しかし、再生可能エネルギーの導入や原子力の活用には、さまざまな困難や課題があります。この章では、日本のエネルギー需給構造やエネルギー政策の現状と、脱炭素化に向けた課題について解説します。
日本のエネルギー需給構造
日本のエネルギー需給構造とは、日本がどのようにエネルギーを消費し、どのようにエネルギーを供給しているかを表すものです。
日本のエネルギー消費量は約2.1億キロリットルであり、そのうち約8割が化石燃料によるものです。化石燃料の中でも、石油が最も多く消費されています。石油は主に輸送部門(自動車や航空機など)で使用されています。石炭は主に発電部門で使用されています。LNG(液化天然ガス)は発電部門と産業部門で使用されています。
一方、日本のエネルギー供給量は約2.3億キロリットルであり、そのうち約9割が海外からの輸入によるものです。海外からの輸入に依存しているエネルギー資源は、石油、石炭、LNG、ウランなどです。日本国内で生産されているエネルギー資源は、水力、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーと、石油や天然ガスなどの化石燃料です。しかし、化石燃料の国内生産量は非常に少なく、自給率は1%以下です。
このように、日本のエネルギー需給構造は、エネルギー資源の不足や化石燃料への依存という特徴を持っています。これらは、エネルギーの安定供給や環境保護という観点から、大きな課題となっています。
日本のエネルギー政策の現状と課題
日本のエネルギー政策の現状は、エネルギー基本計画によって示されています。エネルギー基本計画とは、日本のエネルギー政策の基本的な方向性や目標を定めたものです。エネルギー基本計画は、エネルギーの需給状況や国際情勢などの変化に応じて、定期的に見直されます。現在のエネルギー基本計画は、2018年に策定された第5次エネルギー基本計画です。
第5次エネルギー基本計画では、日本のエネルギー政策の基本的な考え方として、「3E+S」という概念が掲げられています。「3E+S」とは、エネルギー安全保障(Energy Security)、経済性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)に加えて、安全性(Safety)を重視するという意味です。これらの要素は、トレードオフの関係にあることが多く、バランスのとれたエネルギー政策を実現するためには、多様なエネルギー源を最適に組み合わせることが必要です。
第5次エネルギー基本計画では、2030年に達成されるべき電源構成として、以下のようなエネルギーミックスが提案されています。
- 再生可能エネルギー:22~24%
- 原子力:20~22%
- 石炭:26%
- LNG:27%
- 石油:3%
このエネルギーミックスは、日本のエネルギー事情や国際的な動向を踏まえて、3E+Sの観点から策定されたものです。しかし、このエネルギーミックスには、さまざまな課題や課題があります。以下では、再生可能エネルギーと原子力について、その課題や課題について解説します。
再生可能エネルギーの課題
再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、自然のエネルギーを利用するものです。再生可能エネルギーは、化石燃料と違って枯渇する心配がなく、温室効果ガスの排出も少ないという利点があります。日本は、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めており、2023年には電力の約19%を再生可能エネルギーで賄っています。
しかし、再生可能エネルギーには、以下のような課題もあります。
- 発電量の安定性:再生可能エネルギーは、天候や季節、時間帯などによって発電量が変動するため、電力の安定供給に影響を与える可能性があります。例えば、太陽光発電は、雲や雨、夜間などで発電量が低下します。風力発電は、風の強さや向きによって発電量が変わります。このような変動を吸収するためには、蓄電や調整電源などの対策が必要です。
- コストの高さ:再生可能エネルギーは、化石燃料に比べて発電コストが高い場合があります。特に、地熱やバイオマスなどの発電設備の建設や運営には、多額の投資や技術が必要です。また、再生可能エネルギーの発電所は、電力需要の多い都市部から離れた場所に設置されることが多く、送電線の整備や損失にもコストがかかります。
- 環境や社会への影響:再生可能エネルギーは、温室効果ガスの排出を抑えることができますが、その一方で、環境や社会に悪影響を及ぼす可能性もあります。例えば、水力発電は、ダムの建設や水位の変化によって、河川の生態系や周辺の景観や住民の生活に影響を与えることがあります。風力発電は、風車の騒音や振動、鳥類の衝突などの問題が指摘されています。太陽光発電は、大規模な太陽光パネルの設置によって、土地の利用や地域の風土に影響を与えることがあります。
世界のエネルギー事情と動向
世界各国では、脱炭素社会の実現に向けたエネルギー政策や取り組みが加速しています。特に、米国、EU、英国、中国などの主要国は、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指して、2030年までの削減目標を相次いで引き上げたり、具体的な行動計画を発表したりしています。これらの国のエネルギー事情や脱炭素化の取り組みは、日本にとっても重要な参考になります。ここでは、それぞれの国の特徴や課題、日本との比較や学びについて、簡単に紹介します。
- 米国:バイデン政権は、気候変動対策を最重要課題の一つと位置づけ、パリ協定に復帰したり、気候サミットを開催したりするなど、積極的な姿勢を示しています。2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標とし、2030年までに2005年比で50~52%の排出削減を目指すと表明しています1。そのために、再生可能エネルギーの拡大や電化の促進、エネルギー効率の向上、イノベーションの推進など、幅広い分野での投資や政策を打ち出しています2。米国のエネルギー事情は、化石燃料に依存度が高く、特に石油や天然ガスの消費量が世界最大です3。しかし、近年はシェールガス革命や再生可能エネルギーの急速な普及により、エネルギー構成や自給率に大きな変化が起きています4。日本は、米国とのエネルギー分野での協力を強化することで、脱炭素化の推進やエネルギー安全保障の確保に貢献できます。また、米国の技術革新や市場規模に学び、日本のエネルギー産業の競争力を高めることができます。
- EU:EUは、世界の気候変動対策のリーダーとして、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標としています5。そのために、2030年までに1990年比で55%の排出削減を目指すと表明しています6。そのために、再生可能エネルギーの割合を32%以上に引き上げたり、エネルギー効率を32.5%以上向上させたりするなど、具体的な目標や政策を定めています。EUのエネルギー事情は、化石燃料の割合が減少し、再生可能エネルギーの割合が増加しています。特に、太陽光や風力などの変動性の高い再生可能エネルギーの導入に積極的であり、電力システムの安定化や蓄電技術の開発にも力を入れています。日本は、EUとのエネルギー分野での協力を深めることで、再生可能エネルギーの普及や電力システムの改革に関するノウハウや技術を共有できます。また、EUの環境規制やカーボン価格の動向に注目し、日本のエネルギー産業の対応策を考えることができます。
- 英国:英国は、2019年に世界で初めてカーボンニュートラルの法的義務を定めました。2050年までに1990年比で100%の排出削減を目指すという野心的な目標を掲げています。そのために、2030年までに1990年比で68%の排出削減を目指すと表明しています。そのために、再生可能エネルギーの拡大や電化の促進、エネルギー効率の向上、水素やCCUSなどのイノベーションの推進など、幅広い分野での投資や政策を打ち出しています。英国のエネルギー事情は、化石燃料の割合が減少し、再生可能エネルギーの割合が増加しています。特に、洋上風力や原子力などの低排出電源に力を入れており、電力部門の脱炭素化が進んでいます。日本は、英国とのエネルギー分野での協力を強化することで、洋上風力や原子力などの低排出電源の開発や運用に関するノウハウや技術を共有できます。また、英国のカーボンニュートラルに向けた具体的な行動計画や実績に学び、日本のエネルギー政策の策定や実施に役立てることができます。
- 中国:中国は、2020年の国連総会で「2030年までにCO 2 排出を減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを達成するよう努める」と表明しました。また、同年12月の気候野心サミットで、「2030年にGDP当たりCO 2 排出量を65%以上(2005年比)削減する」と表明しました。そのために、再生可能エネルギーの拡大やエネルギー効率の向上、イノベーションの推進など、幅広い分野での投資や政策を打ち出しています。中国のエネルギー事情は、化石燃料に依存度が高く、特に石炭の消費量が世界最大です。しかし、近年は再生可能エネルギーの導入に力を入れており、太陽光や風力などの発電量が急増しています。また、水素やCCUSなどの新しい技術にも積極的に取り組んでいます。日本は、中国とのエネルギー分野での協力を通じて、温室効果ガスの排出削減やエネルギー安全保障の確保に貢献できます。また、中国のエネルギー市場や技術開発の動向に注目し、日本のエネルギー産業の対応策を考えることができます。
まとめ
本稿では、関電火力中止が日本の脱炭素化にどのような影響を与えるかについて、日本と世界のエネルギー事情を踏まえて考察しました。その結果、以下のような点が明らかになりました。
- 関電火力中止は、日本の石炭火力発電所の新規建設計画の中止という意味で、脱炭素化の一歩となると言えます。しかし、日本のエネルギー消費の約8割が化石燃料に依存しており、石炭火力発電所の稼働率も高いことから、単に中止するだけでは、温室効果ガスの排出削減には十分ではありません。
- 日本は、再生可能エネルギーの導入や電化の促進、エネルギー効率の向上、イノベーションの推進など、幅広い分野での投資や政策を強化する必要があります。また、原子力や水素などの低排出電源の活用も検討する必要があります。
- 日本は、米国、EU、英国、中国などの主要国のエネルギー政策や取り組みに注目し、協力や学びの機会を増やす必要があります。これらの国は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標とし、2030年までの削減目標を相次いで引き上げています。日本も、国際社会との連携や競争力の確保のために、より野心的な目標や行動計画を策定し、実行する必要があります。
以上のことから、関電火力中止は、日本の脱炭素化の一歩となると言えますが、それだけでは不十分であり、さらなる取り組みが必要であると言えます。日本は、エネルギー戦略の見直しや社会変革の推進に向けて、国内外のエネルギー事情や動向に応じて、柔軟に対応する必要があります。
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