中央値の欠如がもたらす疑問:平均月給の上昇、真実の姿はどれだけ見えているのか?

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はじめに

「平均月給31万円」とは何か?

「平均月給31万円」という言葉は、厚生労働省が2024年1月24日に公表した2023年の賃金構造基本統計調査の速報値に由来します。この調査は、全国の約7万8000事業所を対象に、2023年6月時点の賃金を調べたものです。この調査によると、フルタイムで働く人の平均月給(残業代など除く)は、前年比2.1%増の31万8300円で、過去最高となりました。上昇率が2%を超えるのは、1994年以来、29年ぶりのことです。

このデータは、フルタイムで働く人の平均月給を示すものであり、パートタイムや非正規雇用の人の賃金は含まれていません。また、賃金の分布や格差については、このデータからは分かりません。しかし、このデータは、日本の賃金水準や賃金動向を把握するための重要な指標の一つです。このデータが話題になったのは、賃金の上昇がコロナ禍からの経済回復の兆しと捉えられたからだと考えられます。

賃金の上昇にはどのような要因があるのか?

では、なぜ賃金が上昇したのでしょうか?賃金の上昇には、以下のような要因が考えられます。

  • 物価高を受けた賃上げ機運の高まり
  • 人手不足を背景にした採用時の好条件の提示
  • 定年延長が浸透し、高齢者の雇用継続が進んだこと

まず、物価高を受けた賃上げ機運の高まりについてです。2023年は、コロナ禍の影響で需要が減少した一方、原油価格の高騰や物流コストの上昇などで供給が不安定になり、物価が上昇しました。特に、食料品やエネルギーなどの生活必需品の値上がりが目立ちました。消費者物価指数(CPI)は、2023年6月に前年同月比1.6%と、2014年4月以来の高い伸び率を記録しました。このような物価高の状況において、労働者の購買力を維持するためには、賃金の上昇が必要です。実際、2023年の春闘では、物価上昇を考慮した賃上げを求める声が強まりました。経団連が発表した2023年春闘の結果によると、賃金の上昇率は前年比0.36%と、前年の0.16%を上回りました。また、政府も、物価上昇に対応した賃上げを促す方針を示しました。これらの動きが、賃金の上昇につながったと考えられます。

次に、人手不足を背景にした採用時の好条件の提示についてです。2023年は、コロナ禍の影響で失業や離職が増えた一方、ワクチンの普及や経済対策の効果で、需要が回復し、企業の採用意欲が高まりました。しかし、人口減少や高齢化、働き方の多様化などの要因で、労働力不足が深刻化しました。特に、若年層や高齢世代の労働力の確保が課題となりました。厚生労働省の調査によると、2023年6月の有効求人倍率は1.23倍と、2019年12月以来の高水準となりました。このような人手不足の状況において、企業は、採用競争に勝つために、好条件を提示する必要があります。実際、厚生労働省の調査によると、2023年の新卒者の初任給は、前年比2.7%増の21万4500円で、過去最高となりました。また、高齢者の平均月給も、前年比4.9%増の27万1000円で、大幅に上昇しました。これらのことから、人手不足を背景にした採用時の好条件の提示が、賃金の上昇に寄与したと考えられます。

最後に、定年延長が浸透し、高齢者の雇用継続が進んだことについてです。2023年は、高年齢者雇用安定法の改正により、企業は、希望するすべての労働者に対して、65歳までの雇用継続を確保することが義務付けられました。この法改正は、高齢者の社会参加や所得確保を促すとともに、労働力不足の緩和にも寄与することが期待されました。実際、厚生労働省の調査によると、2023年6月時点の65歳以上の就業者数は、前年同月比5.4%増の857万人と、過去最高となりました。また、65歳以上の就業者のうち、フルタイムで働く人の割合も、前年同月比0.8ポイント増の35.9%と、高い水準を維持しました。これらのことから、定年延長が浸透し、高齢者の雇用継続が進んだことが、賃金の上昇に影響したと考えられます。

賃金の上昇が経済に与える影響は何か? 賃金の上昇は、経済にとってプラスの効果をもたらす可能性があります。賃金の上昇は、労働者の所得を増やし、消費を促進します。消費の増加は、企業の売上や利益を向上させ、生産や投資を活発化させます。生産や投資の増加は、雇用を創出し、賃金のさらなる上昇につながります。このように、賃金の上昇は、経済の好循環を生み出す可能性があります。また、賃金の上昇は、物価の上昇に対応することで、インフレ期待を高め、デフレからの脱却にも寄与する可能性があります。

しかし、賃金の上昇には、経済にとってマイナスの効果をもたらす可能性もあります。賃金の上昇は、企業のコストを増やし、競争力を低下させます。競争力の低下は、企業の収益性や成長性を損ない、生産や投資を抑制します。生産や投資の減少は、雇用を減らし、賃金の下落につながります。このように、賃金の上昇は、経済の悪循環を生み出す可能性もあります。また、賃金の上昇は、物価の上昇を加速させ、インフレの悪影響を拡大する可能性もあります。

賃金の上昇が経済に与える影響は、賃金の上昇率や持続性、物価の動向、経済の状況などによって異なります。賃金の上昇が経済にとってプラスの効果をもたらすためには、以下のような条件が必要です。

賃金の上昇率が、物価の上昇率や生産性の上昇率を上回らないこと 賃金の上昇が、需要の回復や企業の収益改善に基づくものであること 賃金の上昇が、全ての労働者に広く波及すること 賃金の上昇が、長期的に安定的に続くこと これらの条件が満たされれば、賃金の上昇は、経済の成長や安定に寄与することができます。しかし、これらの条件が満たされなければ、賃金の上昇は、経済の停滞や不安定に拍車をかけることになります。

まとめ この記事では、賃金の上昇について、その背景と要因、そしてその影響について詳しく解説しました。賃金の上昇は、物価高を受けた賃上げ機運の高まり、人手不足を背景にした採用時の好条件の提示、定年延長が浸透し、高齢者の雇用継続が進んだことなどによってもたらされました。賃金の上昇は、経済にとってプラスの効果をもたらす可能性もありますが、マイナスの効果をもたらす可能性もあります。賃金の上昇が経済にとってプラスの効果をもたらすためには、賃金の上昇率や持続性、物価の動向、経済の状況などに注意を払う必要があります。賃金の上昇は、経済の好循環を生み出すチャンスでもあり、経済の悪循環を生み出すリスクでもあります。賃金の上昇を適切に管理し、経済の成長や安定につなげることが重要です。

平均月給の上昇背景とその影響

平均月給の上昇には、さまざまな要因が関与しています。以下に、その主な要因と、それが経済に及ぼす影響について詳しく説明します。

平均月給の上昇背景

2023年の平均月給の上昇は、以下の3つの主要な要因によるものです。

  1. 物価高を受けた賃上げ機運の高まり: 2023年は、コロナ禍からの経済回復とともに、物価が上昇しました。これに対応するため、多くの企業が賃上げを行いました。これが、平均月給の上昇に大きく寄与しました。
  2. 人手不足を背景にした採用時の好条件の提示: 同じく2023年は、労働力不足が深刻化しました。これに対応するため、多くの企業が採用時に好条件を提示しました。これも、平均月給の上昇に寄与しました。
  3. 定年延長が浸透し、高齢者の雇用継続が進んだこと: 高齢者の雇用継続が進んだことも、平均月給の上昇に寄与しました。これは、高齢者の社会参加を促進し、労働力不足の解消にも寄与しました。

平均月給の上昇がもたらす経済への影響

平均月給の上昇は、経済全体に対してさまざまな影響を及ぼします。以下に、その主な影響をいくつか挙げます。

  1. 消費の増加: 労働者の所得が増えると、消費も増えます。これは、経済全体の活動を活性化させます。
  2. 企業のコスト増加: 一方で、賃金の上昇は、企業の人件費を増加させます。これは、企業の利益を圧迫し、経済活動を抑制する可能性もあります。
  3. 物価の上昇: 賃金の上昇は、物価の上昇を引き起こす可能性もあります。これは、インフレのリスクを高めます。

以上のように、平均月給の上昇は、経済に対してプラスの影響とマイナスの影響の両方を及ぼします。その影響の大きさや方向性は、さまざまな要因によって決まります。

年齢別の賃金分析

年齢別の平均月給の変動と、その背後にある要因について詳しく見ていきましょう。

年齢別の平均月給の変動

2023年の賃金構造基本統計調査の速報値によると、年齢別の平均月給の変動は以下のようになっています。

  • 20~24歳: 22万4500円(前年比2.7%増)
  • 35~39歳: 31万4600円(前年比0.7%増)
  • 40~44歳: 33万8700円(前年比1.5%増)
  • 65~69歳: 27万1000円(前年比4.9%増)

これらのデータから、若年層と高齢世代の平均月給が大幅に上昇していることがわかります。一方、30歳~50歳代の伸び率はいずれも2%を下回っています。

若年層や高齢世代の賃金上昇の背後にある要因

若年層や高齢世代の賃金上昇の背後にある要因について考えてみましょう。

まず、若年層の賃金上昇についてです。これは、人手不足を背景に、採用時に好条件を提示する企業が増えていることが一因と考えられます。また、新卒者の初任給が前年比2.7%増の21万4500円で、過去最高となったことも影響しているでしょう。

次に、高齢世代の賃金上昇についてです。これは、定年延長が浸透し、多くの企業で高齢者の雇用を継続していることが一因と考えられます。また、高齢者の平均月給が前年比4.9%増の27万1000円で、大幅に上昇したことも影響しているでしょう。

以上のように、年齢別の賃金分析からは、若年層と高齢世代の賃金上昇が顕著であることがわかります。これらの動向は、今後の労働市場や経済全体にどのような影響を及ぼすのか、引き続き注視していく必要があります。

中央値の問題とその意義

賃金の実態を把握するためには、平均値だけでなく、中央値も重要な指標となります。しかし、現状では、中央値の公表が十分に行われていないという問題があります。以下に、この問題とその意義について詳しく説明します。

中央値が公表されていない問題

厚生労働省が公表する賃金構造基本統計調査の速報値は、平均値に基づいています。しかし、平均値は、極端な値の影響を受けやすいという特性があります。たとえば、一部の高収入者の賃金が大幅に上昇した場合でも、平均値は上昇しますが、それが全体の労働者の賃金の実態を反映しているとは言えません。

一方、中央値は、データを小さい順に並べたときにちょうど中央に位置する値で、極端な値の影響を受けにくいという特性があります。したがって、中央値は、労働者の賃金の実態をより正確に把握するための重要な指標となります。

しかし、現状では、中央値の公表が十分に行われていないという問題があります。これは、賃金の実態を正確に把握するための障害となっています。

中央値の公表が賃金の実態把握に役立つ理由

中央値の公表が賃金の実態把握に役立つ理由は、以下の通りです。

  1. 極端な値の影響を受けにくい: 中央値は、極端な値の影響を受けにくいため、賃金の実態をより正確に反映します。
  2. 賃金格差の把握に役立つ: 中央値と平均値の差を比較することで、賃金格差の程度を把握することができます。
  3. 政策決定の参考になる: 中央値は、最低賃金の設定や所得再分配政策の決定など、政策決定の参考になります。

以上のように、中央値の公表は、賃金の実態把握に大いに役立つと言えます。今後は、中央値の公表を促進し、賃金の実態をより正確に把握することが求められます。

終わりに

今回のデータから見える将来の労働市場のトレンドは、賃金の上昇という明らかな傾向があります。特に、若年層と高齢世代の賃金上昇が顕著であり、これは人手不足や定年延長の影響を反映していると考えられます。また、物価高を受けた賃上げ機運の高まりも、賃金の上昇に寄与しています。

しかし、賃金の上昇が経済全体に与える影響は、一概には言えません。賃金の上昇は、消費の増加や経済の活性化をもたらす一方で、企業のコスト増加や物価の上昇というマイナスの影響もあります。そのため、賃金の上昇と物価の動向を適切に管理し、経済の成長と安定を両立することが重要です。

また、平均値だけでなく、中央値も重要な指標であることを忘れてはなりません。中央値の公表が十分に行われていない現状は、賃金の実態把握の障害となっています。今後は、中央値の公表を促進し、賃金の実態をより正確に把握することが求められます。

最後に、読者の皆様に向けて一言申し上げます。賃金の動向は、私たち一人一人の生活や社会全体に大きな影響を及ぼします。そのため、賃金の動向を理解し、適切な対応をとることが重要です。この記事が、その一助となれば幸いです。

詳細なデータや情報については、厚生労働省の報告書をご覧ください。

令和5年賃金構造基本統計調査速報 url : https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/sokuhou.pdf

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