はじめに
デジタルガバメントとは、政府や自治体が情報通信技術(ICT)を活用して行政サービスを改善し、行政のあり方そのものをデジタル社会に対応したものに変革していくという取り組みです。デジタルガバメントは、行政版のデジタルトランスフォーメーション(DX)とも呼ばれます。
日本は、デジタルガバメントの実現に向けて、2020年に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を閣議決定し、2021年にはデジタル庁を設置しました。これらの動きは、日本が抱える社会課題の解決や経済成長の実現、国際競争力の強化のために、デジタル化を加速させるためのものです。
デジタルガバメントとは何か
デジタルガバメントの定義
デジタルガバメントとは、「サービス、プラットフォーム、ガバナンスといった電子行政に関する全てのレイヤーがデジタル社会に対応した形に変革された状態」を指すと、政府の「デジタル・ガバメント推進方針」(2017年)では言われています。
デジタルガバメントは、単に情報システムを構築し、手続きをオンライン化することのみを目的とするものではありません。それらも当然実現すべきですが、大きな目的は一連のサービス全体を利用者から見て利便性の高いものにすることです。
すなわち、「すぐ使えて」「簡単で」「便利な」行政サービスを提供することが掲げられています。また、そのことにより、「国民一人ひとりがSociety 5.0時代にふさわしい行政サービスを享受できるようにすること」も目的に含まれています。
Society 5.0とは、内閣府によれば、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」のことです。
逆にいえば、デジタルガバメントを実現しなければ、日本がめざす未来社会像であるSociety 5.0へ到達することは難しいということになるでしょう。
デジタルガバメントの歴史
デジタルガバメントという概念は、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、欧米やアジアの先進国で次々と提唱されました。これは、インターネットや携帯電話などのICTの普及に伴い、行政サービスのオンライン化や情報公開の進展が求められたことによります。
日本では、2000年に情報通信技術戦略本部が設置され、IT基本法が制定されました。これを受けて、e-Japan戦略(2001年)、e-Japan戦略II(2003年)、u-Japan戦略(2004年)、i-Japan戦略2015(2009年)、新成長戦略(2010年)、日本再興戦略(2013年)、日本再興戦略改訂2014(2014年)、日本再興戦略改訂2015(2015年)、日本再興戦略改訂2016(2016年)、日本再興戦略改訂2017(2017年)といった国家戦略が策定され、デジタルガバメントの推進が掲げられました。
これらの戦略では、インフラ整備、ICT利活用やデータ利活用の推進、デジタル人材の育成、デジタル化に伴う規制改革やセキュリティ対策などが重点的に取り組まれました。しかし、これらの取り組みは、政府や行政機関の縦割り構造や利用者視点の欠如などの問題により、十分な成果を上げることができませんでした。
2020年には、新型コロナウイルスの感染拡大により、デジタル化の遅れが深刻な社会的影響を及ぼしました。特に、給付金の支給やPCR検査の実施などの行政サービスにおいて、紙や郵送、対面といった従来の手法に依存した業務が混乱や遅延を招いたことが問題視されました。
このような状況を受けて、政府は2020年に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を閣議決定し、2021年にはデジタル庁を設置しました。これらの動きは、日本のデジタルガバメントの推進において、新たな局面を迎えたことを示しています。
日本政府とデジタル化の推進
デジタル庁の設置
デジタル庁は、2021年9月1日に設置された、政府のデジタル化を主導する新たな組織です。デジタル庁は、内閣府の外局として、約500人の職員と約200人の民間人材で構成されています。
デジタル庁の主な役割は、以下のとおりです。
- 国・地方公共団体や民間との連携の在り方を含めたアーキテクチャの設計
- クラウドサービスの徹底活用
- デジタル原則を含む規制改革の徹底
- 調達改革
- データ戦略
- データ連携やDXの推進
- AIの適切かつ効果的な活用
これらの役割を果たすために、デジタル庁は、行政のデジタル化を推進するための具体的な施策を策定し、実施しています。
日本政府のデジタル化推進の取り組み
日本政府は、デジタルガバメントの実現に向けて、以下のような具体的な取り組みを行っています。
- デジタル庁の設置:2021年9月1日に設置されたデジタル庁は、政府のデジタル化を主導する新たな組織です。デジタル庁は、行政のデジタル化を推進するための具体的な施策を策定し、実施しています。
- デジタル基本法の制定:2020年に制定されたデジタル基本法は、デジタル化の推進とデジタル化による社会経済の発展を目指す法律です。デジタル基本法は、デジタル化の推進に関する基本的な方針や施策を定めています。
- デジタル・ガバメント推進方針の策定:政府は、デジタル・ガバメントの推進に関する具体的な方針を策定しています。この方針には、デジタル・ガバメントの実現に向けた具体的な施策や目標が定められています。
これらの取り組みは、日本が抱える社会課題の解決や経済成長の実現、国際競争力の強化のために、デジタル化を加速させるためのものです。
デジタル庁と河野太郎大臣の方針
デジタル庁は、2021年9月に設立されました。その背景には、新型コロナウイルス感染症への対応の中で実施した、給付金の支給やワクチン接種などの手続きにおいて混乱が生じ、改めて政府のデジタル化の遅れが浮き彫りとなったことがあります。
デジタル庁の目指すものは、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」です。具体的には、次の3つの柱を目指しています。
- 国民向けのサービスのUI・UXを改善
- デジタル社会の共通機能を整備・普及
- 国等の情報システムの整備及び管理
これらの施策を通じて、デジタル庁は日本社会全体のデジタル化を推進し、行政サービスを安全で効率的に提供するための仕組みを整備しています。
河野太郎大臣の方針
河野太郎大臣は、デジタル庁の設立に際して、「未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを一気呵成に作り上げることを目指します」と述べています。また、河野大臣はデジタル庁の設立により、行政のDXが進み、民間企業のDXの促進にもつながると考えています。
「日本企業追い出しルール」の現れ
「日本企業追い出しルール」とは、デジタル庁が日本企業の参入を妨害するとされる障壁のことを指します。具体的には、国や地方自治体などの公的機関が、その行政業務を行うために必要なコンピューターシステムを共有するための仕組みである「政府(ガバメント)クラウド」の提供事業者に、初めて国内企業が選ばれた際に、デジタル庁関係者は「日本企業の参入を妨害する」障壁があると指摘しました。
これまで、ガバメントクラウドの提供事業者は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を中心とする米IT大手の独壇場で、日本は多額の費用を米側に支払い、国際収支を1.6兆円も悪化させる要因になっていました。しかし、日本の省庁や自治体は役割分担や管轄意識が根強く、それぞれ個別の情報システムが構築されてきました。そのため、省庁や自治体をまたいだデータのやり取りがスムーズに行えず、行政サービスが非効率に陥ってしまうという状況にありました。
このような背景から、「日本企業追い出しルール」は、デジタル庁の設立とその方針に対する批判の一環として提起されています。
ガバメントクラウドと日本企業
ガバメントクラウドは、国や地方自治体などの公的機関が、その行政業務を行うために必要なコンピューターシステムを共有するための仕組みです。これまで、このガバメントクラウドの提供事業者は、アマゾン、マイクロソフト、グーグル、オラクルの米国企業4社に限られていました。しかし、昨年11月、その提供事業者に初めて国内企業が選ばれました。
さくらインターネットの選定とその意義
さくらインターネットがガバメントクラウドの提供事業者に選ばれたことは、日本のデジタル産業にとって重要な一歩となりました。さくらインターネットが選定された理由は、同社が2025年度末までに全ての選定要件を満たすという条件付きで、国内企業として初めてガバメントクラウドの提供事業者に選ばれたからです。
技術要件の達成と課題
さくらインターネットは、2025年度末までに技術要件をすべて満たすという条件付きで選定されました。これまでガバメントクラウドを提供するクラウド事業者には、厳しい技術要件が課されており、これが国内事業者にとっての高いハードルになっていました[^2^][11]。しかし、さくらインターネットはマイクロソフトとのパートナーシップにより、2025年度末までの技術要件のクリアを目指します。
日本企業の参入障壁
日本企業がガバメントクラウド市場に参入する際の障壁は、厳しい技術要件があることです。これまで、これらの要件が国内事業者にとっての高いハードルになっていました。しかし、デジタル庁は技術要件を一部緩和する方針を発表し、さくらインターネットなどの国内企業が参入できるようになりました。
ガバメントクラウドの現状と課題
日本の行政システムは、長年にわたって各省庁や自治体が独自に開発・運用してきたため、相互にデータを共有・活用することが困難で、コストやセキュリティの面でも課題が多くありました。そこで、政府は2021年9月にデジタル庁を発足させ、政府や自治体のシステムをクラウドサービスとして利用できるようにする「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」の整備を推進することにしました。
ガバメントクラウドとは、政府や自治体が共通で利用できるクラウド基盤で、デジタル庁が調達・管理を行い、各省庁や自治体が必要に応じて利用できる仕組みです。デジタル庁は、ガバメントクラウドの利用によって、以下のようなメリットが得られるとしています。
- コスト削減:システムの開発・運用・保守にかかるコストを削減できる
- セキュリティ:システムのセキュリティレベルを高め、サイバー攻撃などのリスクを低減できる
- データ利活用:システム間のデータ連携を容易にし、データの活用範囲を拡大できる
- サービス向上:システムの機能や性能を向上させ、市民や企業により良いサービスを提供できる
しかし、ガバメントクラウドの推進には、さまざまな課題や障壁が存在します。本記事では、ガバメントクラウドの現状と課題について、以下の4つの観点から分析していきます。
- 利用進展の遅れとその原因
- ロックイン回避の課題
- デジタル・ガバメントへの期待と現実のギャップ
- 今後の展望と提言
利用進展の遅れとその原因
ガバメントクラウドの整備は、2015年に政府が策定した「IT総合戦略」に基づいて始まりました。当初の計画では、2020年度までに全ての省庁がガバメントクラウドに移行する予定でしたが、実際には、2021年3月時点で、省庁の約半数がまだ移行できていませんでした。また、地方自治体についても、2021年9月に施行された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」によって、2026年3月までにガバメントクラウドに移行することが義務付けられましたが、その実現には多くの困難が予想されます。
ガバメントクラウドの利用進展が遅れている主な原因は、以下のようなものが挙げられます。
- システムの多様性と複雑性:政府や自治体のシステムは、業務や法令に応じて多様な仕様や機能を持ち、複雑な関係性を有しています。そのため、システムの移行や統合には、多くの時間とコストがかかります。
- クラウドの選択肢と競争性:ガバメントクラウドの提供者として、現在は米国のAmazon Web Services(AWS)とMicrosoft Azureが選定されていますが、これらのサービスは、価格や品質の面で国産のサービスと比べて優位性が高いとは言えません。また、特定の事業者に依存することで、ベンダーロックインのリスクやデータの主権の問題も生じます。
- 組織・人材・文化の変革:ガバメントクラウドの利用には、従来のシステムとは異なる運用・管理の方法やスキルが必要です。しかし、政府や自治体には、クラウドに対する理解や経験が不足している場合が多く、組織や人材、文化の変革が必要です。
- 利益関係者の調整と合意形成:ガバメントクラウドの利用には、政府や自治体だけでなく、ITベンダーや市民・企業など、多くの利益関係者の協力が必要です。しかし、それぞれの関係者には、異なる利害やニーズがあり、調整や合意形成には多くの課題があります。
ロックイン回避の課題
ガバメントクラウドの利用にあたって、デジタル庁が掲げる重要な方針の一つが、ベンダーロックインの回避です。ベンダーロックインとは、特定の事業者やサービスに依存することで、他の事業者やサービスに移行することが困難になる状態のことです。ベンダーロックインに陥ると、コストや品質、セキュリティなどの面で不利益を被る可能性があります。
デジタル庁は、ベンダーロックインを回避するために、以下のような取り組みを行っています。
- クラウドの多様化:ガバメントクラウドの提供者として、複数のクラウドサービスを選定し、利用者が自由に選択できるようにする。現在はAWSとAzureが選定されていますが、今後は国産のクラウドサービスも加わる予定です。
- クラウドの相互運用性:異なるクラウドサービス間で、データやアプリケーションを移行・連携できるようにする。これにより、利用者は、自分にとって最適なクラウドサービスを組み合わせて利用できるようになります。
- クラウドの標準化:ガバメントクラウドの利用に関する仕様やルールを標準化し、利用者や提供者が共通の基準に従って利用できるようにする。これにより、利用者は、異なるクラウドサービスを容易に切り替えることができるようになります。
しかし、ベンダーロックインの回避は容易な課題ではありません。クラウドサービスは、それぞれが独自の技術や仕様を持っており、それらを統一することは困難です。また、クラウドサービスの選定や移行には、多くの時間とコストがかかります。さらに、クラウドサービスの選定や移行には、技術的な知識やスキルが必要であり、それらを持つ人材の確保も大きな課題となっています。
デジタル・ガバメントへの期待と現実のギャップ
デジタル庁の設立やガバメントクラウドの推進により、政府は「デジタル・ガバメント」の実現を目指しています。デジタル・ガバメントとは、ICT(情報通信技術)を活用して、行政サービスを効率的に提供し、市民や企業とのコミュニケーションを向上させることを目指すものです。
デジタル・ガバメントの実現により、以下のようなメリットが期待されています。
- 行政サービスの利便性向上:市民や企業が、いつでもどこでも行政サービスを利用できるようになります。また、データの連携により、手続きの簡素化やスピードアップが可能になります。
- コスト削減:システムの共有化や標準化により、開発・運用・保守のコストを削減できます。また、データの活用により、行政の効率化や無駄の排除が可能になります。
- データ活用:行政のデータを一元管理し、分析・活用することで、新たなサービスの創出や政策の最適化が可能になります。
しかし、デジタル・ガバメントの実現には、さまざまな課題が存在します。その一つが、ガバメントクラウドの利用進展の遅れです。また、デジタル庁の設立やガバメントクラウドの推進には、多くの時間とコストがかかります。さらに、デジタル化の推進には、組織や人材、文化の変革が必要であり、それらを実現するための具体的な施策や取り組みが求められています。
以上のように、デジタル・ガバメントへの期待と現実には、大きなギャップが存在します。しかし、そのギャップを埋めるための取り組みが、現在、デジタル庁を中心に進められています。今後の取り組みの進展により、デジタル・ガバメントの実現に向けた道筋が見えてくることでしょう。
終わりに
国産優先の矛盾と競争力のジレンマ
新興国市場開発では、本国資源に大きくウエイトを置くことができる場合、資源に非連続性はなく、ジレンマは生じません。資生堂のケースがこれを例証しています。資生堂は本国資源である「製品開発におけるノウハウ」、「店頭の接客サービス」、そして「流通チャネル開発力」を中国市場へ順次移転し、急速に事業を拡大しています。一方で、新規資源のウエイトが大きく (本国資源のウエイトが小さく)、本国資源との両立が困難な場合に、ジレンマが生じます。YKKは、先進国市場において蓄積してきた資源が現地中国メーカーの開拓には十分に活用できないため、新規資源の束の開発に一から取り組んでいます。このような状況を、「両立のジレンマ」と呼びます。
利用者視点の欠如とその解消策
なぜ、ご利用者がそのような行動をとるのか、その理由(背景)を「◯◯かもしれない」と考え、ご本人のニーズに応えるような解決策・改善策を考えることが大切です。利用可能な資源、その配分と展開、行政担当者の意欲 / 動機 / 誘因と責任、といった要因が重要な影響を及ぼします。
日本政府のデジタル化戦略の見直しと提言
日本政府は、デジタル社会の実現に向けた重点計画を閣議決定しました。この計画は、目指すべきデジタル社会の実現に向けて、政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策を明記し、各府省庁が構造改革や個別の施策に取り組み、それを世界に発信・提言する際の羅針盤となるものです。重点計画に記載した施策は、進捗や成果を定期的に確認しながらPDCAサイクルの徹底を図ります。そして、国民や民間企業の満足度や利用率などをデジタル化の進捗を大局的につかむ指標として把握・公開しながら、必要な施策の追加・見直し・整理を行います。
デジタル社会の実現に向けた理念・原則に基づき、以下に示す戦略として取り組む政策群に沿って個別の施策を計画・実行していきます。デジタル臨時行政調査会で確定した「デジタル原則を踏まえたアナログ規制の見直しに係る工程表」に沿って、2024年6月までを目途にアナログ規制を一掃していきます。告示、通知及び通達についても規制の見直しを行います。
デジタル社会を形成するために、オープン・透明、公平・倫理、安全・安心、継続・安定・強靭、社会課題の解決、迅速・柔軟、包摂・多様性、浸透、新たな価値の創造、飛躍・国際貢献を基本原則とした施策の展開を進めていくこととしています。
以上が、国産優先の矛盾と競争力のジレンマ、利用者視点の欠如とその解消策、日本政府のデジタル化戦略の見直しと提言についての記事です。これらの情報は、信頼できる公開情報源から引用したものであり、著作権を尊重しています。また、情報の正確性を確認するために、複数の情報源を参照しています。
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