「リンク税」はメディアの救世主になれるか?欧州から世界へ広がる新たな著作権法のメリットとデメリット

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はじめに

インターネットが日常生活の一部となり、情報の取得が容易になる一方で、その情報を提供するメディア企業の収益性は問題となっています。その一因として、GoogleやFacebookなどのプラットフォーム企業が、メディア企業のコンテンツを引用し、広告収入を得ていることが挙げられます。これに対抗するため、欧州では「リンク税」が導入されました。

「リンク税」とは、具体的には、プラットフォーム企業がメディア企業の記事を引用する際に、そのメディア企業に対して料金を支払うことを義務付ける制度です。この制度は、2019年に欧州連合(EU)で制定された著作権指令の一部として導入されました。

しかし、「リンク税」には賛否両論があります。一方で、メディア企業の収益源を守り、その持続可能性を高めるという目的が評価されています。一方で、インターネットのオープン性や情報の自由流通に悪影響を及ぼすという批判も存在します。

本記事では、「リンク税」について詳しく検討していきます。まず、「リンク税」の目的と効果について説明し、次にその課題と反対意見を紹介します。その後、国際的な動向と今後の展望を探り、影響についての事例研究を行います。さらに、各ステークホルダーの立場を検討し、最後に代替案について考察します。

この記事を通じて、「リンク税」の全体像を理解し、その影響を正確に把握することができることを願っています。

見出し1: 「リンク税」の目的と効果

インターネット上での情報共有は、私たちの生活にとって不可欠なものとなりました。しかし、その一方で、情報を提供するメディア企業の収益性が問題となっています。その背景には、GoogleやFacebookなどのプラットフォーム企業が、メディア企業のコンテンツを引用し、広告収入を得ているという現状があります。これに対抗するために、欧州では「リンク税」が導入されました。この記事では、「リンク税」の目的と効果について、以下の4つの観点から詳しく見ていきます。

  • 「リンク税」の目指すもの
  • 「リンク税」の適用方法
  • 「リンク税」がもたらすメリット

「リンク税」の目指すもの

「リンク税」が目指すのは、メディアの収益源となる広告収入がプラットフォームに流れるのを防ぎ、メディアの持続可能性を高めることです。具体的には、プラットフォーム企業がメディア企業の記事を引用する際に、そのメディア企業に対して料金を支払うことを義務付ける制度です。

「リンク税」の背景には、メディアの危機があります。インターネットの普及により、メディアの収入源である新聞や雑誌の販売部数が減少し、広告収入も減少しました。一方で、プラットフォーム企業は、メディアのコンテンツを引用して、ユーザーの関心を引き、広告収入を得ています。このように、メディアのコンテンツがプラットフォームに利用されることで、メディアの収益性が低下し、メディアの質や多様性が損なわれる恐れがあります。

「リンク税」は、このような状況を改善するために、欧州で提唱されました。欧州では、2019年に「著作権指令」が施行され、メディアのコンテンツを引用するプラットフォーム企業に対して、メディア企業にライセンス料を支払うことを義務付けました。この指令は、メディアの著作権を保護し、メディアの収益性を向上させることを目的としています。

「リンク税」の適用方法

「リンク税」は、報道記事の一部を引用したり、スニペット(記事の一部を抜粋したもの)を表示したりする場合に適用されます。具体的には、プラットフォーム企業は、メディア企業の記事を引用するために、そのメディア企業にライセンス料を支払う必要があります。このライセンス料は、メディア企業の収益源となります。

「リンク税」の適用範囲は、欧州の各国で異なります。例えば、フランスでは、記事のタイトルやURLだけでなく、記事の一部を引用する場合にも「リンク税」が適用されます。しかし、ドイツでは、記事のタイトルやURLは「リンク税」の対象外とされています。また、オーストラリアでは、プラットフォーム企業がメディア企業の記事を引用する際に、そのメディア企業に対して、記事の価値に応じた料金を支払うことを義務付ける「ニュースメディア交渉法案」が提案されています。

「リンク税」がもたらすメリット

「リンク税」がメディア企業にとってどのようなメリットをもたらすのかを理解するために、具体的な数字や事例を見てみましょう。

  • フランスでは、「リンク税」の導入により、メディア企業の収入が増加しました。具体的には、Googleはフランスのニュース出版社に対して、年間約6000万ユーロ(約75億円)の支払いを行う契約を結びました。この契約は、2021年1月に発表され、2023年までの3年間有効です。この契約には、約120社のニュース出版社が参加しています。
  • オーストラリアでは、「ニュースメディア交渉法案」が提案されたことで、プラットフォーム企業とメディア企業の間で、記事の価値に応じた料金の支払いに関する交渉が進められました。その結果、Googleはオーストラリアの主要なニュース出版社と、年間約1億オーストラリアドル(約80億円)の支払いを行う契約を結びました。また、Facebookもオーストラリアのニュース出版社と、年間約5千万オーストラリアドル(約40億円)の支払いを行う契約を結びました。
  • メディア企業の収入が増加することで、メディアの質や多様性が向上する可能性があります。メディア企業は、より多くのジャーナリストを雇ったり、より深い調査報道を行ったり、より多様な視点を提供したりすることができます。これは、民主主義や社会の発展にとって重要な役割を果たすメディアの機能を強化することにつながります。

「リンク税」の課題と反対意見

「リンク税」は、メディア企業の収益性を向上させるための制度として導入されましたが、その一方で、インターネットのオープン性や情報の自由流通に悪影響を及ぼすという批判も存在します。また、プラットフォーム企業とメディア企業の間のパワーバランスを変える可能性があり、メディアの多様性や独立性を損なう恐れもあります。さらに、インターネットユーザーにとっても、情報の入手が困難になるなどのデメリットが生じる可能性があります。以下では、これらの課題と反対意見について詳しく見ていきましょう。

インターネットのオープン性への影響

インターネットは、情報を自由に共有し、知識を広めるための重要なツールです。しかし、「リンク税」により、情報の共有が制限されると、インターネットのオープン性が損なわれる可能性があります。具体的には、プラットフォーム企業が「リンク税」のコストを避けるために、メディア企業のコンテンツを引用しなくなると、その情報はプラットフォーム上で共有されなくなります。これにより、ユーザーはその情報を得ることが難しくなり、情報の偏りが生じる可能性があります。

メディアの多様性と独立性への影響

「リンク税」は、プラットフォーム企業にメディア企業との交渉力を偏らせる可能性があります。具体的には、プラットフォーム企業は、メディア企業に対して「リンク税」の支払いを拒否することで、メディア企業を圧迫することができます。これにより、メディア企業は、プラットフォーム企業に依存することを余儀なくされ、その結果、メディアの多様性や独立性が損なわれる可能性があります。

インターネットユーザーへの影響

「リンク税」は、インターネットユーザーにとってもデメリットをもたらす可能性があります。具体的には、プラットフォーム企業がメディア企業のコンテンツを表示しなくなると、ユーザーはその情報を得ることが難しくなります。また、プラットフォーム企業が「リンク税」のコストをユーザーに転嫁する場合、ユーザーはプラットフォームの利用料金の増加を余儀なくされる可能性があります。

以上のように、「リンク税」には、様々な課題と反対意見が存在します。これらの課題を解決するためには、メディア企業、プラットフォーム企業、政策立案者、そしてユーザーが協力し、新たな解決策を模索する必要があります。次のセクションでは、「リンク税」の国際的な動向と今後の展望について詳しく見ていきましょう。それにより、「リンク税」がどのように進化し、これらの課題をどのように解決していくのかについての理解を深めることができます。また、具体的な事例を通じて、「リンク税」の影響を具体的に理解することもできます。それでは、次のセクションに進みましょう。

「リンク税」の国際的な動向と今後の展望

インターネット上でニュースや記事の一部を引用したり、リンクを貼ったりすることに対して、メディア企業がプラットフォーム企業から報酬を受け取ることを定めた法律や規制のことを「リンク税」と呼びます。この「リンク税」は、欧州連合(EU)が2019年に施行した著作権指令の一部として導入されましたが、その後、オーストラリアやカナダなどでも検討されるようになりました。この記事では、「リンク税」の国際的な動向と今後の展望について、以下の3点に焦点を当てて解説します。

  • メディア企業とプラットフォーム企業の間でどのような交渉や協議が行われているか、最新の動きや成果を報告する。
  • 「リンク税」がメディアとプラットフォームの関係を再定義することで、新たなビジネスモデルやイノベーションの可能性を生み出すこともできるという見方もあることを紹介する。
  • 「リンク税」の導入に伴う課題や問題点、今後の展開について考察する。

メディア企業とプラットフォーム企業の交渉と協議の状況

「リンク税」の導入により、メディア企業はプラットフォーム企業から自社のコンテンツの利用に対する報酬を受け取る権利を得ましたが、その具体的な金額や条件は各国の法律や規制によって異なります。また、プラットフォーム企業は「リンク税」の支払いを拒否したり、コンテンツの表示を制限したりすることもできます。そのため、メディア企業とプラットフォーム企業の間では、様々な交渉や協議が行われています。ここでは、主要な国や地域での最新の動きや成果を紹介します。

  • 欧州:EUの著作権指令では、メディア企業とプラットフォーム企業が「リンク税」に関する契約を自由に結ぶことができますが、その際には「公正で合理的で非差別的な」条件を適用することが求められます。EU加盟国は、2021年6月までにこの指令を自国の法律に取り入れる必要がありますが、現在までに完了したのはフランス、ドイツ、オランダなどの一部の国だけです。フランスでは、メディア企業とプラットフォーム企業が「リンク税」に関する契約を結ぶことを義務付ける法律が2020年10月に施行されました。その後、フランスのメディア企業とGoogleが「リンク税」の支払いに関する契約を結ぶことで合意しました。この契約では、Googleがメディア企業に対して、コンテンツの品質や人気度などに基づいて報酬を支払うことになっています。また、Googleはメディア企業のコンテンツを自社のサービスで優先的に表示することも約束しています。この契約は、欧州での「リンク税」の先例となる可能性があります。
  • オーストラリア:オーストラリアでは、メディア企業とプラットフォーム企業が「リンク税」に関する契約を結ぶことを義務付ける法律が2021年2月に施行されました。この法律では、メディア企業とプラットフォーム企業が「リンク税」の金額や条件について交渉できない場合は、政府が仲裁に入って決めることになっています。この法律に対して、Facebookはオーストラリアのニュースコンテンツの表示を一時的に停止するという強硬な措置を取りましたが、その後、政府との協議の結果、法律の一部を修正することで合意しました。Facebookは、オーストラリアのメディア企業と「リンク税」に関する契約を結ぶことを表明しました。一方、Googleは、オーストラリアのメディア企業と「リンク税」の支払いに関する契約を結ぶことで合意しました。Googleは、メディア企業のコンテンツを自社のサービスで優先的に表示することも約束しています。オーストラリアの法律は、世界で初めて「リンク税」を強制的に課すものとして注目されています。
  • カナダ:カナダでは、夏前から「リンク税」に関する政府とグーグル、メタとの応酬が続いています。メタはニュース表示を中止し、一方グーグルは税額を減らす交渉を続け、単一組織と契約することで合意しました。その結果、グーグルは年間1億カナダドル(約110億円)を支払うことになりました。しかし、この合意は大規模メディアへの資金集中をもたらし、ローカルニュースメディアの苦境は続くとの見方があります。これらの動向は、「リンク税」に関する複雑な課題を示しています。

メディアとプラットフォームの関係の再定義とイノベーションの可能性

「リンク税」の導入は、メディアとプラットフォームの関係を再定義することで、新たなビジネスモデルやイノベーションの可能性を生み出すこともできるという見方もあります。ここでは、そのような見方の例を紹介します。

  • メディア企業とプラットフォーム企業のパートナーシップ:「リンク税」の導入により、メディア企業とプラットフォーム企業は、より密接なパートナーシップを結ぶことが求められます。例えば、メディア企業は、プラットフォーム企業と共同でコンテンツの制作や配信を行うことができます。また、プラットフォーム企業は、メディア企業のコンテンツを自社のサービスで優先的に表示することを約束することができます。これにより、メディア企業とプラットフォーム企業は、共に利益を得ることができます。
  • ユーザーのニーズに応えるサービス:「リンク税」の導入により、メディア企業とプラットフォーム企業は、ユーザーのニーズに応えるような新たなサービスを提供することが可能になります。例えば、メディア企業は、プラットフォーム企業と共同で、ユーザーが興味を持つ可能性のあるコンテンツを提供することができます。また、プラットフォーム企業は、メディア企業のコンテンツをユーザーの検索履歴や閲覧履歴に基づいて推奨することができます。これにより、ユーザーは、自分の興味やニーズに合った情報を得ることができます。
  • 以上のように、「リンク税」の導入は、メディアとプラットフォームの関係を再定義し、新たなビジネスモデルやイノベーションの可能性を生み出すことができます。しかし、その一方で、「リンク税」には、様々な課題や反対意見も存在します。これらの課題を解決するためには、メディア企業、プラットフォーム企業、政策立案者、そしてユーザーが協力し、新たな解決策を模索する必要があります。それでは、次のセクションに進みましょう。

「リンク税」の影響についての事例研究

「リンク税」とは、インターネット上でニュースや記事の一部を引用したり、リンクを貼ったりする際に、メディア企業に対して著作権使用料を支払うことを義務付ける制度のことである。この制度は、メディア企業の収益を守るために必要だと主張する人もいれば、インターネットの自由や情報の流通を阻害すると批判する人もいる。この記事では、近年「リンク税」を導入したり、導入しようとしたりした国や地域で、メディア業界やインターネット環境にどのような影響があったかについて、具体的な事例を紹介する。

フランス: 「リンク税」の先行導入国で、グーグルとメディア企業が著作権使用料の支払いに関する契約を結んだ

  • 背景: フランスは、2019年7月に欧州連合(EU)の著作権指令に基づいて「リンク税」を導入した最初の国である。この指令は、インターネット上でニュースや記事の一部を引用したり、リンクを貼ったりする際に、メディア企業に対して著作権使用料を支払うことを義務付けるもので、EU加盟国は2021年6月までに国内法に取り入れることが求められている。フランスのメディア企業は、グーグルなどのプラットフォーム企業が彼らのコンテンツを無断で利用して広告収入を得ているとして、「リンク税」の導入を歓迎した。
  • 経過: しかし、グーグルは「リンク税」の導入に反発し、2019年9月にフランスでのニュースサービスの仕様を変更した。グーグルは、メディア企業からの明示的な同意がない限り、ニュースや記事の見出しや画像を表示しないと発表した。これにより、メディア企業のウェブサイトへのアクセスが減少し、収益に悪影響を及ぼすと懸念された。フランスのメディア企業は、グーグルの対応を不公平で独占的だと非難し、フランス政府や欧州委員会に対して介入を求めた。フランス政府は、グーグルに対して「リンク税」を遵守するように圧力をかけ、フランスの競争当局は、グーグルがメディア企業との交渉に応じるように命じた。
  • 結果: 2021年1月に、グーグルとフランスのメディア企業の代表団体が、著作権使用料の支払いに関する契約に合意したと発表した。この契約により、グーグルはメディア企業に対して、彼らのコンテンツの人気や品質などの基準に基づいて、一定の金額を支払うことになった。グーグルはまた、メディア企業がグーグルのニュースサービスや検索エンジンに表示されるコンテンツの量や形式を選択できるようにすると述べた。この契約は、フランスのメディア企業にとっては、グーグルからの収入源を確保するとともに、コンテンツの制御権を維持することができるというメリットがある。一方、グーグルにとっては、フランスでのニュースサービスの継続や、他のEU加盟国との交渉における先例の確立というメリットがある。

スペイン: 「リンク税」を導入したが、グーグルがニュースサービスを停止し、メディア企業の収入が減少した

  • 背景: スペインは、2014年10月に「リンク税」を導入した。この制度は、インターネット上でニュースや記事の一部を引用したり、リンクを貼ったりする際に、メディア企業に対して著作権使用料を支払うことを義務付けるもので、メディア企業はその権利を放棄することができないとされた。スペインのメディア企業は、グーグルなどのプラットフォーム企業が彼らのコンテンツを無償で利用していることに不満を持ち、「リンク税」の導入を支持した。
  • 経過: しかし、グーグルは「リンク税」の導入に反発し、2014年12月にスペインでのニュースサービスを停止した。グーグルは、ニュースサービスは広告収入をほとんど生み出さないため、著作権使用料を支払うことは経済的に不合理だと主張した。グーグルはまた、ニュースサービスはメディア企業にとっても有益であるとし、メディア企業が自らのコンテンツをニュースサービスに表示させるかどうかを選択できるようにするべきだと述べた。
  • 結果: グーグルのニュースサービスの停止は、スペインのメディア企業にとっては、ウェブサイトへのアクセスや広告収入の減少という悪影響をもたらした。スペインのメディア企業の代表団体は、グーグルに対してニュースサービスの再開を求めるとともに、政府に対して「リンク税」の見直しを要請した。しかし、政府は「リンク税」の撤廃や修正には応じなかった。その後、スペインのメディア企業は、グーグル以外のプラットフォーム企業との協力や、自らのニュースアグリゲーターを開発するなどの対策を講じたが、グーグルのニュースサービスの代替となるものは見つからなかった。

オーストラリア:オーストラリアでは、2021年2月に「リンク税」を導入しようとしたが、フェイスブックがニュースコンテンツの表示を一時的に停止するという強硬な措置を取りました。

オーストラリアでは、2021年2月に「リンク税」を導入しようとしたが、フェイスブックがニュースコンテンツの表示を一時的に停止するという強硬な措置を取りました。しかし、その後、政府との協議の結果、法律の一部を修正することで合意しました。フェイスブックは、オーストラリアのメディア企業と「リンク税」に関する契約を結ぶことを表明しました。一方、グーグルは、オーストラリアのメディア企業と「リンク税」の支払いに関する契約を結ぶことで合意しました。グーグルは、メディア企業のコンテンツを自社のサービスで優先的に表示することも約束しています。オーストラリアの法律は、世界で初めて「リンク税」を強制的に課すものとして注目されています。

以上の事例から、「リンク税」の導入は、メディア企業、プラットフォーム企業、そしてユーザーにとって、様々な影響を及ぼすことがわかります。これらの影響を理解することは、「リンク税」の課題を解決し、より良いインターネット環境を実現するために重要です。それでは、次のセクションに進みましょう。それにより、「リンク税」がどのように進化し、これらの課題をどのように解決していくのかについての理解を深めることができます。

「リンク税」は誰のために? 誰の不利益に? メディアとプラットフォームの間で揺れる著作権改正の行方

前提

インターネット上でニュースや記事を読むとき、どのようにしてその情報にたどり着くでしょうか? GoogleやYahooなどの検索エンジンを使ってキーワードを入力し、表示されたリンクをクリックするというのが一般的な方法でしょう。また、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアで、友人や知人がシェアしたリンクを見て、気になるものを開くというのもよくあるでしょう。

しかし、このようなリンクの共有には、著作権の問題が潜んでいます。リンク先のメディア企業は、自社のコンテンツが検索エンジンやソーシャルメディアに表示されることで、広告収入やアクセス数が増えるというメリットがあります。一方で、検索エンジンやソーシャルメディアのプラットフォーム企業は、メディア企業のコンテンツを引用したり、スニペット(要約)や画像を表示したりすることで、ユーザーの利便性や満足度を高めるというメリットがあります。

このように、メディア企業とプラットフォーム企業は、インターネット上での情報の流通において、相互に依存しながらも競合する関係にあります。しかし、この関係は、現行の著作権法では十分に保護されていないという主張があります。特に、メディア企業は、プラットフォーム企業が自社のコンテンツを無断で利用しているとして、その対価として金銭的な報酬を求めるという要求があります。これが、通称「リンク税」と呼ばれるものです。

「リンク税」とは、正式には「オンライン利用に関する報道出版物の保護」という名称で、欧州連合(EU)が2019年に制定したデジタル単一市場における著作権に関する指令(DSM著作権指令)の第15条に規定されています。この条文によれば、プラットフォーム企業は、メディア企業の報道出版物をオンラインで利用する際には、その著作権者と事前に契約を結ぶか、あるいはその利用に対して適切な報酬を支払う必要があります。この指令は、2021年6月までにEU加盟国によって国内法に移行される予定です。

この「リンク税」に対しては、賛成派と反対派が激しく対立しています。賛成派は、メディア企業の著作権や報酬を守ることで、ジャーナリズムの質や多様性を高めると主張します。反対派は、「リンク税」がインターネットの自由やオープンさを損なうと主張します。また、この問題には、一般のインターネットユーザーや政策立案者など、他のステークホルダーも関わっています。

本記事では、「リンク税」に対する各ステークホルダーの立場を検討し、その背景や理由、課題や解決策などを整理し、比較します。また、各ステークホルダーの間で、どのような対話や協力が必要か、どのような調整や妥協が可能か、どのような紛争や対立が起こりうるかなどを分析します。

メディア企業の立場

メディア企業は、「リンク税」の最大の推進者です。メディア企業は、自社の報道出版物がプラットフォーム企業によって無断で利用されることによって、著作権の侵害や収入の減少などの不利益を被っていると主張します。メディア企業は、以下のような主張や要求をしています。

  • メディア企業は、報道出版物の著作権者として、その利用に関する最終的な決定権を持つべきである。プラットフォーム企業は、メディア企業の許可なく、報道出版物の一部や全体を表示したり、引用したりすることはできない。
  • メディア企業は、報道出版物のオンラインでの利用に対して、適切な報酬を受ける権利を持つべきである。プラットフォーム企業は、メディア企業のコンテンツを利用することで、広告収入やユーザーデータなどの利益を得ているのに、その対価として何も支払っていない。これは、メディア企業の収入源を奪うことになり、ジャーナリズムの質や多様性を低下させる。
  • メディア企業は、「リンク税」を導入することで、プラットフォーム企業との交渉力を強化することができる。プラットフォーム企業は、メディア企業のコンテンツを引き続き利用するためには、メディア企業との契約を結ぶか、あるいはその利用に対して金銭的な報酬を支払う必要がある。これによって、メディア企業は、プラットフォーム企業との公正なパートナーシップを築くことができる。

メディア企業の中でも、特に新聞や雑誌などの出版業界は、「リンク税」の支持者として積極的に活動しています。出版業界は、インターネットの発展によって、紙媒体の販売や広告収入が減少し、経営が厳しくなっています。出版業界は、自社のコンテンツをデジタル化してオンラインで配信することで、新たな収入源を確保しようとしています。しかし、オンラインでの広告収入は、紙媒体と比べて低く、また、有料購読者を増やすのは難しいという課題があります。出版業界は、「リンク税」を通じて、プラットフォーム企業からの報酬を得ることで、デジタル化による収入の減少を補うことを期待しています。

プラットフォーム企業の立場

一方、プラットフォーム企業は、「リンク税」の最大の反対者です。プラットフォーム企業は、自社のサービスを通じてメディア企業のコンテンツを利用することで、ユーザーの利便性や満足度を高めるというメリットがあります。プラットフォーム企業は、以下のような主張や要求をしています。

  • プラットフォーム企業は、メディア企業のコンテンツを引用したり、リンクを貼ったりすることで、ユーザーにとって有益な情報を提供している。これは、インターネットの自由やオープンさを保つために重要な役割である。プラットフォーム企業は、この役割を果たすためには、メディア企業のコンテンツを自由に利用することが必要であると主張している。
  • プラットフォーム企業は、メディア企業のコンテンツを利用することで、メディア企業にとっても有益であると主張している。プラットフォーム企業は、自社のサービスを通じて、メディア企業のウェブサイトへのアクセスを増やし、広告収入を増加させるというメリットを提供している。プラットフォーム企業は、このメリットを考慮に入れると、「リンク税」の支払いは不必要であると主張している。
  • プラットフォーム企業は、「リンク税」の導入は、インターネットの自由やオープンさを損なうと主張している。プラットフォーム企業は、「リンク税」が導入されると、メディア企業のコンテンツの利用が制限され、ユーザーの利便性や満足度が低下すると主張している。また、プラットフォーム企業は、「リンク税」が導入されると、自社のサービスの運営コストが増加し、ビジネスモデルが損なわれると主張している。

以上のように、メディア企業とプラットフォーム企業は、「リンク税」に対して、それぞれ異なる立場を取っています。これらの立場は、それぞれのビジネスモデルや利益、そしてインターネットの自由やオープンさという原則に基づいています。

「リンク税」の代替案

「リンク税」とは、プラットフォーム企業(GoogleやFacebookなど)が、メディア企業(新聞社や雑誌社など)の記事や写真などのコンテンツを自分たちのサイトやアプリで紹介する際に、そのコンテンツの著作権者に対して一定の料金を支払うという制度です。この制度は、メディア企業の収入源である広告収入がプラットフォーム企業に奪われているという問題に対処するために、欧州連合(EU)やオーストラリアなどの国や地域で導入されました 。

しかし、「リンク税」には、以下のような問題点も指摘されています 。

  • プラットフォーム企業がメディア企業のコンテンツを紹介しなくなることで、メディア企業の露出度やアクセス数が減少し、逆に収入が減る可能性がある。
  • プラットフォーム企業がメディア企業との契約を結ぶ際に、自分たちに都合の良い条件を押し付けることで、メディア企業の独立性や多様性が損なわれる可能性がある。
  • プラットフォーム企業がメディア企業に対して支払う料金が、コンテンツの質や価値に応じて決められるのではなく、交渉力や市場力によって決められることで、不公平な競争が生じる可能性がある。
  • プラットフォーム企業がメディア企業のコンテンツを紹介すること自体が、インターネットの自由な情報流通や利用者の利便性にとって重要な役割を果たしていることを無視している。

では、「リンク税」の問題点を解決するために、他にどのような方策やアイデアが考えられるのでしょうか。ここでは、以下の三つの代替案を紹介します。

  • 広告収入の分配モデル:プラットフォーム企業がメディア企業のコンテンツを紹介する際に、そのコンテンツに関連する広告収入の一部をメディア企業に還元するモデルです。このモデルでは、プラットフォーム企業とメディア企業の収入のバランスを改善するとともに、プラットフォーム企業がメディア企業のコンテンツを紹介するインセンティブを維持することができます。例えば、フランスでは、2020年11月にGoogleとフランスのメディア企業の団体が、広告収入の分配に関する契約を結びました。この契約により、Googleは、Googleニュースや検索結果でフランスのメディア企業のコンテンツを紹介する際に、そのコンテンツの著作権者に対して、広告収入に応じた料金を支払うことになりました。
  • パートナーシップの強化モデル:プラットフォーム企業とメディア企業が、コンテンツの制作や配信に関する協力や支援を行うモデルです。このモデルでは、プラットフォーム企業とメディア企業の関係を対立ではなく協力として捉え、双方の強みを活かして、コンテンツの質や多様性を向上させることができます。例えば、Facebookは、2018年に「Facebookジャーナリズムプロジェクト」という取り組みを開始しました。このプロジェクトでは、Facebookは、メディア企業に対して、ニュースコンテンツの制作や配信に関するツールやトレーニング、資金援助などを提供しています。また、Facebookは、自社のプラットフォームでメディア企業のコンテンツを紹介する際に、そのコンテンツの信頼性や透明性を高めるための取り組みも行っています。
  • 政府の支援モデル:政府がメディア企業を支援するための補助金や税制優遇策などを実施するモデルです。このモデルでは、政府がメディア企業の経済的な困難や社会的な責任を認め、その重要性や公益性を保障することができます。例えば、カナダでは、2018年に「ジャーナリズムと民主主義のための行動計画」という政策を発表しました。この政策では、カナダ政府は、メディア企業に対して、以下のような支援策を提供しています。
    • メディア企業の従業員の給与に対する労働税額控除
    • メディア企業の寄付に対する個人所得税の控除
    • メディア企業の購読に対する消費税の免除

以上の三つの代替案は、それぞれにメリットとデメリットを持ちます。メリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 広告収入の分配モデルでは、プラットフォーム企業とメディア企業の収入のバランスを改善するとともに、プラットフォーム企業がメディア企業のコンテンツを紹介するインセンティブを維持することができます。
  • パートナーシップの強化モデルでは、プラットフォーム企業とメディア企業の関係を対立ではなく協力として捉え、双方の強みを活かして、コンテンツの質や多様性を向上させることができます。
  • 政府の支援モデルでは、政府がメディア企業の経済的な困難や社会的な責任を認め、その重要性や公益性を保障することができます。

デメリットとしては、以下のような点が挙げらられます。

  • 広告収入の分配モデルでは、プラットフォーム企業とメディア企業の間で広告収入の分配比率をどのように決めるか、また、広告収入の計算方法や透明性をどのように確保するかなどの問題があります。
  • パートナーシップの強化モデルでは、プラットフォーム企業とメディア企業の間でのパートナーシップの形成や維持が難しい場合があります。また、プラットフォーム企業がメディア企業のコンテンツを選択的に紹介することで、情報の公平性や中立性が損なわれる可能性があります。
  • 政府の支援モデルでは、政府がメディア企業を支援するための資金をどのように確保するか、また、支援の対象となるメディア企業をどのように選定するかなどの問題があります。また、政府がメディア企業を支援することで、メディアの独立性や自由が損なわれる可能性があります。

以上のように、「リンク税」の代替案には、それぞれにメリットとデメリットがあります。これらの代替案を選択する際には、メディア企業とプラットフォーム企業、そして一般のインターネットユーザーの利益や権利をバランス良く考慮することが求められます。また、これらの代替案を実現するためには、法制度や技術基盤、ビジネスモデルなどの改革や革新が必要です。

「リンク税」の問題は、インターネットの自由やオープンさ、メディアの独立性や多様性、そして情報の公平性や透明性という、我々が大切にしている価値を問い直すものです。この問題に向き合い、解決策を探ることで、我々は、より良いインターネット環境を実現するための道筋を見つけることができます。

終わりに

この記事を通じて、「リンク税」についての全体的な考察を行いました。「リンク税」の目的と効果、課題と反対意見、国際的な動向と今後の展望、影響についての事例研究、各ステークホルダーの立場、代替案などを詳細に触れてきました。

「リンク税」は、メディア業界やインターネット環境、そして社会全体に大きな影響を与えています。その影響は、情報の流通やアクセス、コンテンツの制作や配信、広告収入やビジネスモデル、著作権や報酬、法制度や技術基盤、そしてインターネットの自由やオープンさ、メディアの独立性や多様性、情報の公平性や透明性といった、我々が大切にしている価値に直接関わっています。

「リンク税」についての議論は、これからも続くでしょう。新たな法制度や技術基盤、ビジネスモデルが登場するたびに、その適用や影響、評価や反応が問われるでしょう。また、各ステークホルダーが自身の利益や権利を追求するたびに、その交渉や協力、調整や妥協、紛争や対立が生じるでしょう。

このような状況の中で、読者自身が情報を得て意見を形成することの重要性を強調したいと思います。情報は、我々が世界を理解し、判断し、行動するための基盤です。情報を得ることで、我々は、自身の立場や価値、目標や期待、権利や責任を明確にし、それを守るための方法を探すことができます。

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